【緊縛小説】 縄絡み (1-1)
§1の1 短期のバイト
大学に入って、2年目くらいの年だった。
あれは、「日刊アルバイトニュース」 だったか、
それとも、学生会館で紹介されたのか、
もう忘れてしまったが、1日か2日程度の短期の
工事作業の補助業務。
作業場は、何処か都内の学校の校舎の屋上だった。
当時の学校の屋上は、普通のセメント葺きが一般的だったが、
その学校は私立校だったのか、その屋上に防水加工をするというもの。
ちょうどテニスコートに使われているような、フワフワとした材料を
屋上の床面に舗装する作業。
部分的な補修だったのか、職人と若手がひとりずつ。
補助作業は、自分を入れて、急に集められたアルバイト2名であった。
若手は、黙々と樹脂や砂などの材料を、混ぜ合わせる。
これをバケツに入れて、屋上の作業場まで、
運んでいくのが、アルバイトの仕事。
職人は、片手にコテ板を持ち、そこにバケツから材料を取り、
左官鏝(さかんこて)で、手際良く均(なら)していく、単純な作業である。
***
朝、指定された時間に、指定された場所に集合すると、
あたかも、作業着と分かる格好をした、職人と若手が、
トラックから、材料の積み下ろしをしていた。
作業をしている二人に近付き、あいさつすると、
職人が、「おうっ、良く来たな・・・」 と言ったかと思うと、
間髪入れず、「そこのバケツを、あそこに持って行け・・・」
と、作業が指示される。
作業を手伝っていると、暫くして、
もうひとりのアルバイトが、到着した。
もうひとりのアルバイトは、若手の作業補助。
自分は、職人の作業補助に割り振られる。
若手は寡黙(かもく)なのに対して、
職人は、饒舌(じょうぜつ)だった。
混ぜた材料の上げ下ろしは、職人を除く全員でやるので、
それ以外の時間は、ほぼ、職人のお相手が仕事になった。
一通り、自分のことを聞かれた後、
いろいろと、仕事の話を始める。
「この ”なんとかコート” ってのは、ウチの会社の
社長が特許持ってて、すげーだろ?」
から始まり、これを舗装するのと、しないのとでは、
どういった違いがあるか、こちらが 「はぁ・・・」 としか
言えないような話である。
一通り、仕事の話をし終わると、もう話すネタが尽きたのか、
静かになった。
左官鏝で、コテ板から、材料を取る際の、
鏝がコテ板を擦る、リズミカルな音と、
それを小気味良く、床に伸ばしていく音だけが、響いていた。
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