【緊縛小説】 縄始め 6-2
§6の2 話し合い
翌日、学校の終業式を終えて、早めに帰路に着く。
やはり、彼女の声を聞かないと、スッキリしない。
今度また、ご主人が出て来たら、どう返事しようかと
いろいろと、策を巡らす。
回覧板は、回覧の順路が違うので、使えないし、
業者のフリも、無理がある。
ようやく編み出したのが、彼女の郵便受けから、
郵便物をつまみ出して、これを、自分の家の郵便受けに、
誤配されたものとして、彼女の家に届ける戦略だった。
周囲を確認し、彼女の家の郵便受けから、なんとか、
斜めに引っ掛かっている封筒を、取り出すことに成功する。
12月の半ばも過ぎ、街や商店街は、クリスマス一色。
もう、肌寒い時期なのに、冷や汗が出るも、
意を決して、彼女の家のベルを鳴らす。
「どちらさまですか?」
良かった、彼女の声である。
○○○号室の緒尾です、と名乗ると、直ぐにドアが開いて、
中に入れられた。
「郵便受けに、会えないマークが
貼ってあるのに、なんで来たの?」
彼女が、厳しい顔をして、問い詰めてくる。
仕方なく、会えない理由が分からなくて、いろいろと
気になってしまって、勉強にも、身が入らないことを伝えると、
彼女は、「ふ~っ」 と仕方なさそうな、ため息をついて、
自分を部屋の中に招いた。
「ここに、座って・・・」
その声は、いつものように明るく楽しそうな声ではなく、
落ち着き払ったような、事務的な声だった。
「お話があるの・・・」
カチャカチャと、いつもと同じように、紅茶を出してくれるものの、
いつもの雰囲気と、全然違う。
彼女曰く、前に会ったときに、きちんとお話しなかったのは、悪かったけど、
大学の入学試験も、もうすぐだし、そちらに集中してほしいこと。
そして、うちの家に、入り浸りになるのではなくて、
彼女を作ったりすることも含めて、若者らしい生活を、
楽しんでもらいたいと、思っていること。
そして、彼女が自分のことを、嫌いになったから、
こういうことを、言っているのではなく、
むしろ彼女は、自分のことを、好きだし、
大好きだからこそ、言ってるのだ、ということを、伝えられた。
自分のことを、好きだからこそ、自分のことを、
考えてくれている彼女と、自分のことしか考えていない
猿同然で、ヤリ目の、ガキンチョ 男子高校生との間で、
意思疎通が図れるはずもない。
そんな彼女が、考え出した懐柔策は、
自分が目指している大学に、合格したときには、
お祝いとして、一泊で、一緒に旅行に行こう・・・
というものだった。
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