【緊縛小説】 縄絡み (10-1)
§10の1 モテない悩み
その日以来、アルバイトで、給料が入ったりすると、
そのスナックに、顔を出したりするように、なっていた。
例の女の子と、出会って以来、
近い年齢の子をナンパして、デートしたり、
みたいなことも、なくなっていた。
そもそも、毎日が、ハレの日ばかり、
であるはずもない。
学校の授業と、アルバイトの毎日。
学校が理系だったこともあるが、
女の子との、出会いは皆無の毎日だった。
出会いが少ないことも、
問題だったが、
付き合いが続かない、
というのも、大きな問題だった。
自分の初体験が、
普通ではなかったから、
なのかと、悩んだりもした。
身体の中から、込み上げてくる
「性の衝動」 と、
心の中から、滲み出てくるような、
「恋愛感情」 は、
自分の中では、全くの別物であり、
完全に分離して、しまっていて、
結び付いて、いないのである。
告白して、振られては、悩み、
デートして、
「わたしは、アナタの何なの?」
と言われては、困惑し、
ようやく、お付き合いに持ち込めた、としても、
お互いに、自分の思い通りに、なるはずもなく、
別れては、凹む。
玉砕の連続だった。
一方では、ナンパして、
そのまま、ラブホに直行して、
お互いに貪りあっても、
多くは、一晩限り。
聞き出した電話番号に、
電話を掛けてみると、
「お掛けになった電話番号は、
現在、使われておりません。
電話番号を、もう一度お確かめになり・・・」
なんて言う、録音メッセージが
聞こえてくる場合も、少なくなかった。
まだ、お店も準備中の、早い時間、
店を訪れると、ママには、
「こんな早い時間から、お店に来て。
彼女とか、いないの?」
みたいなことを言われ、
ママに何度か、相談したことがあった。
ママは、買出してきた食材を、
冷蔵庫にしまったり、
お通しを準備しながらも、
いろいろと相談に乗ってくれた。
ママは、SM の世界も同じだ、と言っていた。
緊縛にはまって、縛ることばかりに
一生懸命になる人もいれば、
心の繋がりなどは、全く、関心がなく、
その場限りのプレイで、十分に、
満足な人もいるし、
プレイの背後にある、
心の繋がりを重視する人も、
いるのだと言う。
世の中、どれが正解で、
どれが正しいというものは、
ないけれど、
やはり、心がガッツリと入ったときの、
充実感に勝るものはない、
と、ママは言っていた。
「どうしたら、そうなれるの?」
そう聞くと、
ママは、アイスピックで
氷を掻きながら、
「いっぱい、悩んで、
いっぱい、涙を流して、
いっぱい、苦しみなさい・・・」
とだけ言った。
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