【緊縛小説】 縄絡み (1-4)
§1の4 電話を待つ
短期のアルバイトは、予定通り、
その2日間だけで終了した。
ところが、それから幾ら、待てど暮らせど、
職人からは、一向に連絡が入らない。
あんだけ、「思わせぶり」 に、
誘いを掛けて来たにも、かかわらず、
である。
今、思えば、確かに電話は、一家に一台、
「家の電話」 しかない時代。
家に電話すれば、
家族が出るのは分かっているし、
自分が家に居る保証もない。
当時は、「携帯電話」 などは、存在しない時代。
喫茶店などで、待ち合わせすれば、
まだ、連絡の取りようは、あるものの、
「ハチ公前」 なんかで、待ち合わせした日には、
逢えないと、
駅に設置されていた、伝言板を除けば、
お互いに連絡を取る手段が、
何もない、そんな時代であった。
思い返してみれば、
アルバイトなどの仕事の場合は、
用事があるときは、
こちらから掛けるのが一般的で、
職場から家に連絡が入るのは、
緊急の場合を除き、
全くと言って良いほど、なかった。
職人からは、全く音沙汰もない。
しかし、そこには、
何かを 「期待」 している自分がいる。
勇気を出して、
平日の仕事が終わって、
職人が、家に居そうな時間を、
見計らって、
電話を掛けてみることにした。
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