【緊縛小説】 縄絡み (1-3)
§1の3 お誘い
職人は、どんどん饒舌になって、話し掛けてくる。
「おいっ、学生。
『裏・ビデオ』 って、見たことあるか?」
当時はまだ、「ビデオカセットテープレコーダー」 が、出始めの頃。
一般の家庭に普及する、少し前の時期である。
それまでは、「カセットテープ」 と言えば、音楽専用。
当時は、「ウォークマン」 が出て、暫くした頃で、
「カセットテープ」 全盛のときだった。
映像は、オープンリールの磁気記録式のものが、学校にはあったが、
そんな高価なものは、個人で買えるはずもなく、それまでは、
一般の家庭では、「8mmフィルム」 を、高価な 「映写機」 に掛けて見るしかない、
そんな、一部のマニアにのみ、限定されていた時代だった。
「話には聞いたことがありますが、
まだ、見たことありません・・・」
「ビデオカセットテープレコーダー」 が巷(ちまた)に出回るようになると、
「ビニ☆本」 あるいは 「裏☆本」 と呼ばれた、「密造写真集」 全盛の時代から、
徐々に、
「8mmフィルム」 の時代に、裏で出回っていた、「ブルー☆フィルム」 と呼ばれていた、海外から不法に持ち込まれた 「アダルトフィルム」 や、日本で秘密裏に製作された 「ノー☆カット」 と呼ばれる、不法な ”丸見え映像” が、「8mm」 から 「ビデオ」 にシフトし始めた、そんな時代だった。
「コレクションたくさん持ってるけど、
ウチに見に来るか?」
話の展開に、”脳” が着いて行けず、即答出来なかった。
今考えると、その間も、多分、左官鏝の音だけが、聞こえていたはずであるが、
混乱していたためか、何の音も聞こえていない。
それまでは、「イヤらしい」 ものと言えば、
高校時代に、当時の友人の親が秘蔵していた、北欧の毛むくじゃらの 「ノー☆カット本」 を、友人が学校に持ってきたときに、学校の便所で見せてもらったやつと、
それこそ 「映像」 では、「高☆3」 のときに、学校の授業を抜け出して、悪友と二人で見に行ったのは、「いちご白書」 ならぬ、「日活ロマンポ☆ルノ」 を上映していた 「成☆人映画館」。
そこで見た 「”原悦子” の三本立て」 くらいのものである。
「は、はぁ ・・・」
と答えるのが、精一杯だった。
***
作業も終了し、最後に給料を貰うとき、連絡先を交換した。
このときに、若手がチラッと、こちらを振り向き、
何故か気まずそうな顔をして、顔を横に振る素振りをしたが、
そのときは、その意味を知る由もなかった。
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