【緊縛小説】 縄絡み (8-3)
§8の3 縄なめし
「毛羽(けば)焼き」 と聞いて、一緒に、外に出たは見たものの、良く良く考えてみると、当時の自分は、何が 「毛羽焼き」 なのかも、まだ、分かっていないので、もしかしたら、「手羽(てば)焼き」 と、聞き間違えて、いたかも知れない。
皆の後に付いて、一緒に外に出てみると、
ちょうど一人が、新聞紙を棒のようにしたものの先に、
コンロで、火を点つけているところだった。
火の点いた新聞紙を、
風に晒してあった縄の下に、もっていき、
縄に火を近づけると、
縄の下から、火が上に走るように、
ぱーっと燃え上がっていく。
火が走る度に、
「おおおおっーーー」
という、歓声が沸いた。
毛羽を取るために、煮て、縄が緩んでいるときに、
火で、毛羽を焼いているらしい。
火の点いた新聞の筒を、上下に動かして、
縄の位置を少しずつ変えながら、一通り炙ると、
別の人が、それを交互に引っ張って、
ごしごしとしごいている。
「お前も手伝え」 みたいな感じで、年配の人から、
濡れ雑巾を渡される。
そのしごいた縄を下ろして、
雑巾で煤(すす)を拭(ぬぐ)う仕事だ。
年配の人は、コンロで白いものを溶かした液を、
ボウルに移すと、そこに油を入れて、掻き混ぜ始めた。
時間が経つと、だんだんと、透明な液が、
白いクリームのようなものになってきた。
拭った縄を、年配の人に渡すと、
年配の人は、乾いた雑巾に、そのクリームみたいなもの
を付けると、縄をごしごしと、しごいていく。
何をしているのか、聞いてみると、
油を入れているのだと言う。
料亭なので、「サラダ油か、何かですか?」 と聞くと、
「これは、食べもんじゃなくて、
人様の肌に触れるもんだから、
そういう油を使うんでぃ・・・」
みたいに言われる。
そのまま完全に乾かしてしまうと、縄がカサカサになって
弱くなってしまうらしい。
どうやら、煮て抜いた、鉱物油の油分を、
その油で、補っているようだ。
本数が多いので、結構大変だった。
その作業が終わると、もう一度、縄を
物干竿に引っ掛けて、風に晒して、その日の作業は終了。
物干し台も、仕事で使った服や、布巾なども干すためか、
何段にも、竿が掛けれるようになっていて、
一番高いところは、3m くらいの高さがあった。
「巨人の星」 みたいに、
夕日で真っ赤になった空に、
まるで暖簾のように、
物干し台から、縄が吊るされて、
風に棚引いている様子は、
何処か厳かな、感じがした。
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