【緊縛小説】 縄絡み (8-1)
§8の1 縄仕込み
縄仕込みの当日。
都心に近い、各駅停車の駅で、
待ち合わせをしていると、
ほどなくして、若手が現れた。
若手の後を、付いて行くと、
駅前の繁華街からは、
少し離れたところにある、
旧家を思わせる、古い佇まいで、
しっかりと、手入れの行き届いた、
古い造りの、和風建築の
建物の前を、通り過ぎると、
裏手の、駐車場の脇にある
勝手口から、中に入っていった。
勝手口を入ると、
そこは、車が2~3台は
止まれそうな、中庭があり、
いくつかの倉庫が、並んでいて、
作業場のようになっている。
既に、何人かの人達が、表に
敷かれた、大きなガスコンロに、
寸胴鍋を載せ、そこにホースで、
水を張っている。
若手は、その中で、恰幅の良い、
入れ墨を入れた人のところに
行くと、少し話をすると、
こちらに来るようにと、
自分に、手招きをした。
どうやら、ここの店の、親方のようだ。
自分は、急いで、駆け寄り、
「今日は、よろしく、お願いします。」
と、頭を下げると、「楽しんでいってな」 と、
一言だけ、言葉をもらった。
声が太いので、
「ここで一番の若手は、お前だったのに、
随分とまた、若いの、連れてきたな・・・」
みたいな話し声も、全て筒抜けだった。
そのとき、そこに居た、3~4人の人達は、
何かしらの作業をしていたので、
「手伝います」 と言うと、
そこに、切り置かれていた縄尻を、
紐で結んでおくように、言われた。
要領が分からず、まごついていると、
若手が自分に寄って来て、
仮留めだけど、縄を煮たり、
なめしているときに
外れない程度に、しっかりと、
結べばいいよ、といって、
見本を見せてくれた。
一緒に作業している人達は、
どうやら、昔、若手が此の店に、
お世話になっていたときの、
同僚のようで、作業をしながら、
いろいろと、積もり話を、
しているようだった。
縄に挟まった、麻の皮を取り、
縄を切り分け、
その切り口の部分を、
紐で縛ったものを、
お湯の中で煮て、
上から棒で、ずんずんとしごくと、
今度は、それを取り出して、
従業員用の洗濯機で、脱水し、
それを、物干竿に掛け、
庭の物干し台に、
掛ける作業の、繰り返しなのだが、
量が多いので、結構、骨が折れる。
この方法は、「煮なめし」 という
方法だそうで、麻縄を縒るときに
使われる、鉱物油を抜いて、
縄を柔らかく、するのだという。
昔は、「泥なめし」 と言って、
店に来る途中に渡った川の、
河原の泥に浸けておくと、
泥の中の微生物が、勝手に、
麻縄に付着している、鉱物油を、
分解してくれたらしい。
これを、川の水に、晒し置く、
だけだったので、
時間は掛かったけど、
昔の方が、楽だったと、
年配の人が、教えてくれた。
お昼前頃になると、
「おはようございます~」
と言って、和装の女性や、
濃い目の化粧の女性の人達が、
勝手口の木戸を通って、
次々と入ってきた。
以前、仲居を務めていた女や、
自分と同じように、縄好きで呼ばれて、
居ついた女性の姿も、あったようだが、
多くは、行き付けの、近所の飲み屋
の女性だと、言っていた。
かなりの量の差し入れを、持って来る、
女性もいたので、それを運ぶお手伝いで、
何人かが、居なくなったり、
親方に呼ばれて、借り出される人達も居て、
結局、外に残っているのは、
若手と自分だけになった。
一通り、作業を終えると、後片付けをして、
中に入って行くと、手土産の差し入れを肴に、
広間では、既に、宴会が始まっていた。
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