【緊縛小説】 縄絡み (2-2)
§2の2 お邪魔する
その声は、
職人の家に、初めて、電話したときに、
電話に出た、声の女性だった。
職人が、慌てて、ビデオを止めると、
奥さんは、買い物で、買って来たものを、
冷蔵庫にしまいながら、
「別に、何見てたか、分かってるんだから、
慌てて消さなくても、いいわよw」
と、笑った。
自分が、
「どうも、お邪魔しています・・・」
と、半分、気が動転しながら、あいさつをすると、
奥さんは、
「この前の、学生さんね?
晩ご飯を食べて、ゆっくりしていってね・・・^^」
と言うと、さっそく、台所で、支度を始めた。
職人は、小柄な体格で、
どちらかと言うと、飄々(ひょうひょう)としていて、
何処か憎めない、ひょうきんなタイプ。
一方、職人の奥さんは、
グラマーで、胸もお尻も、大きくて、
品を感じさせる、結構美形の女性。
まさしく、「月とすっぽん」 という言葉が、
ピッタリの、夫婦だった。
奥さんは、手際良く、準備をしながらも、
二人に、話し掛けてくる。
今日は、どうやら、昼過ぎから、
美容室に行って来たらしい。
職人も、やたらと、女房のことを褒めて、
自分に自慢してくる。
奥さんから、
「お酒、飲めます?」
と聞かれたので、
「はい・・・」
と答えると、二人分の、コップと小鉢が、
用意される。
職人が、2つのグラスに、ビールを注ぎ、
2人で、軽く、乾杯をすると、
職人は、あとは、手酌で飲み始めた。
どうやら、この家庭は、
亭主関白のようだった。
しばらくして、一通り、支度を終えると、
奥さんが、追加の小鉢とグラスを、
持って来ると、
「わたしも、頂戴します」
と言って、職人と自分の間に、座り、
両手で、グラスを差し出すと、
職人が、奥さんのグラスに、ビールを注ぐ。
最初は、緊張していて、
生きた心地が、しなかったが、
陽気で、きれいな奥さんと、
一緒に飲むのは、
まんざらでもなかった。
奥さんが、職人と自分の共通の話として、
アルバイトのときの話を、持ち出し、
奥さんが、自分の肩を持って、
「主人に、扱(こ)き使われなかった?」
と、自分に気遣いを見せると、
職人は、まるで聞き捨てならない、とばかりに、
真剣な面持ちで、
「おいおい、そんなこと、ないよな?」
と、必死に否定し、弁明する。
「こいつが、やってみたいって言うから、
鏝均(こてなら)しも、やらせてやったんだよな?」
奥さんは、冗談だと思ったのか、あるいは、
話を真に受けているのが、面白かったのか、
笑い飛ばしていると、
職人は、そわそわし出して、目配せをして、
自分に、同意を求めてくる。
「ホントの話ですw」
職人は、「ほらっ」 と言うと、
ビールを飲み干して、
「こいつが、チンタラやってるから、
”そんなんじゃ、乾いちまうっ!” て言って、
直ぐに鏝を、取り上げたんだもんな?」
そう言って、自慢げに笑う。
奥さんは、そんな職人が突き出した、
空っぽのグラスに、ビールを注ぐ。
この二人は、実に、
仲の良い夫婦なんだな、と思った。
そして、二人が、お付き合いを始めた当時、
どちらが、最初に惚れたのか、という話になると、
奥さんは、はじめは、
しつこかった職人のことが、
好きではなかったけれど、
職人の、一本気なところに、惚れたので、
最初に、口説いて来たのは、職人だと言い、
職人の方は、俺は酔い越しの金は持たず、
こいつが、最初に、俺に惚れた、と言って聞かない。
二人の会話の回転が早いので、
どうしても、アルコールのピッチも速くなる。
二人の男が、
清楚な、サマーセーターを着た、艶やかな女性を囲み、
美味しい肴をアテに、話に花を咲かせた。
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