ムダ毛の話(1)- 業者に騙されないで
ムダ毛のお手入れ
女性の 「ムダ毛のお手入れ」 と言えば、ひと昔前までは、カミソリ等でせいぜいワキ毛処理。 「スネ毛」 を剃(そ)る女性もおりましたが、どちらかと言えば、スネ毛処理をするのが多いのは 「ミセス」 というイメージでした。通常であれば後は、水着を着るシーズンであれば、アンダーヘアのビキニライン、通称 「V ライン」 のお手入れくらいだったように思います。
最近はというと、全体的にはツルツルが好まれる傾向にあるように思います。
「ツルツル志向」 の裏には、美容業界やエステ業界の戦略も隠れていそうですが、「髪型には、あそこまで拘(こだわ)るのに、何故、アンダーヘアには拘らないのか」 と言われると、「他人に見せるものではないから」 としか、反論出来ません。(苦笑)
確かに、これまで、あまりにもケアをする習慣が無さ過ぎたという点については、反省の余地があると思っています。
「毛」 にまつわる話は、男女両方に言えますが、頭髪はもとより体毛からアンダーヘアに至るまで、本人のコンプレックスが絡むだけに、いろいろと難しいものです。
そんなに気にするほどのムダ毛ではなかったとしても、ムダ毛の存在を友人から指摘されただけで、言った本人自身はそこまで意図して言ったわけでないのにもかかわらず、コンプレックスに感じてしまったりするものです。
また、そこまでいかないまでも、多少気になる女性の場合は、「カレシが好むから」 といった受身の理由で処理している人も、少なくありません。
いずれにしても、本人のコンプレックスが払拭(ふっしょく)出来たり、自分に自信が持てるようになるのであれば、それは、大きな効果だと思いますので、脱毛自体を否定をするつもりはありません。
最近は、実際にアンダーヘアをつるつるの 「パイパン」 にしたり、あるいは、かなり細く 「フレンチスタイル」 に仕上げている女性は、20 代くらいの若い女性に多く見掛けます。しかし、どちらかと言うと、ファッション感覚的なノリで剃っている女性が多いようです。
最近のファッション的な流行と言ってしまえば、それまでです。自分が 「好き」 でやってるファッションなのであれば、誰に文句を言われる筋合いもありません。
しかし所詮(しょせん)は、日本の美容業界やエステ業界が仕組んだものに過ぎません。
そういう意味においては、何から何までツルツルにしてしまうのも、如何(いかが)なものかと思う今日この頃。個人的には 「やりすぎ」 だと思っています。
「ムダ毛のお手入れ」 関連の記事。第1回目は、まず、洗脳にも近い、これらの業界の虚構(きょこう)とも言える 「イメージ戦略」 を斬ります。
ネットの脱毛記事の大半は、業者のステルス広告
しかし、ネットを見ても、最近の日本の美容業界あるいはエステ業界のステルス広告的なものは、どれもこれも同じ脈絡の記述を林立させている感じで、かなり、「イメージ戦略」 も露骨。
アフィリエイト的な手段を使ったり、あるいは、ネットワークビジネスを駆使(くし)して、いろいろと 「ばら撒き記事」 を書かせたのでしょうか?
脱毛関連を検索してみると、何処(どこ)も彼処(かしこ)も、「デリケートゾーン」 のお手入れは 「ハイジニーナ」 です。(苦笑)
幾つかのパターンがありますが、国際結婚あるいは海外留学に絡めて、外国人との恋愛に夢見る女性をターゲットにする場合は、「ドイツ人の男性に、ボーボーのアンダーヘアを見られて、引かれた」 というもの。その後は、「ドイツ人はみんな剃ってる」 という帰結です。(笑)
ついこの間まで、手足毛むくじゃらで体臭のきつかったドイツ人は、いつから変わったのでしょうか?(笑)
清潔を売りにするものもありますが、菌の繁殖など病理学的な解説をあげるところは皆無です。多くは、生理中のアンダーヘアの汚れがないことをあげる程度。あとは 「つるつるだから、きれいになったでしょ?」 みたいに 「感性に訴える」 アプローチです。
「全部アンダーヘアを無くすと、スベスベで清潔でしょ?」
「モジャモジャは不潔でしょ?生理のときは、アンダーヘアもすごく汚れるし。アンダーヘアがあると余計に匂ったりするでしょ。」
「ハイジニーナって言うのよ。」
「海外では、それが当たり前なのよ?女性だけではなくて、男性もワキ毛やアンダーヘアをツルツルにするのが先進的なの。」
「海外のセレブや、日本の女性芸能人もやってるの知ってる?」
「古代エジプトの王朝や古代ローマでは、高貴なひとだけが、ツルツルにしてたのよ。」
完全なるイメージ戦略と言うよりは、洗脳まではいきませんが、言葉巧(たく)みな誘引です。(苦笑)
内容についても、そのまま鵜呑(うの)みにされても適切でない部分が多いので、まずは誤解のないように、そこら辺をちょっと掘り下げます。
「ハイジニーナ」 なんて英語は存在しない
代表的な例が 「ハイジニーナ(hygienina)」 という用語。「パイパン」 もしくは 「つるまん」 の意味らしいんですが、英語風ではあるものの、完全なる ”日本の美容エステ業界” 謹製(きんせい)の和製造語です。ちなみに、「デリケートゾーン」 なんてのと同じ。こんな英語は存在しません、(苦笑)
まあ、「パイパン」 では、ターゲットとなる若い女性消費者のウケもあまり宜(よろ)しくありませんので、何かしら、「アンダーヘアの全毛脱毛」 に良いイメージを持って貰(もら)わないといけないことは理解できます。
そこで 「衛生的」 であることを謳(うた)い文句にしようとなったことは、推測に難くありませんが、衛生的というのも、「毛がなければ、生理のときに毛に汚れが付着することもない」 というだけの、単なるマーケティング上のイメージ戦略に過ぎません。
説明の多くには、「hygiene(衛生・健康法)」 をベースにした造語であることは書かれています。しかし、文脈的には、海外で由緒あるいは権威ある・・・的なニュアンスを暗喩しています。暗喩を使っているのは、ライター自身かも知れません。しかし、そういう人の利用の仕方をしつつも、そのイメージを広げようとするところが匂うだけに、違和感を覚えます。
脱毛ブームは、ブラジリアンワックスが発祥
これらのステルス広告を見ると、欧米から入ってきた 「先端文化」 とでも言いたげですが、言ってしまえば、アメリカで流行った 「脱毛ブーム」 が、欧州に流れて、それが日本に入って来ただけのことです。
「ブラジリアンワックス」 は、1980年代にブラジル人のパジーリャ(Padilha)さんが姉妹と共にアメリカのニューヨークに移り住み、そこで、「Jシスターズ(J Sisters International)」 というサロンを開業し、ブラジルの脱毛処理を紹介したのが、米国における 「ブラジリアンワックス」 の先駆けです。
「This Salon is the Ground Zero of the Brazilian Waxing」
アメリカの場合、それまでは、アンダーヘアのお手入れは、カミソリが主流でしたが、2008年に放送された海外ドラマ 「SEX AND THE CITY(セックス・アンド・ザ・シティ)」 の中で、「ブラジリアンワックス(Brazilian Waxing)」 が番組の中で取り上げられて、ちょっとしたセンセーションを巻き起こしたことから、ブームが起こりました。
「ブラジリアンワックス」 は、ニューヨークタイムズなどでも紹介され、米国では脱毛論争が起こったほどです。
ニューヨークタイムズの記事の中で、「キャメロン・ディアズ(Cameron Diaz)」 が、「アンダーヘアは残す派」 宣言したことなどは、日本の芸能ニュースなどでも伝えられたりしましたが、ご存知の方は、まだ記憶に新しいと思います。
Jan 30, 2014, "Below the Bikini Line, a Growing Trend", New York Times
ちなみに、「ブラジリアンワックス」 とは、「ワックス脱毛」 において、アンダーヘアを全部取ってしまうことを言います。「アメリカンワックス」 は、ビキニラインに隠れるゾーンをそのまま、「フレンチワックス」 は、女性器の上に I の字になるように細くアンダーヘアを整えるようです。
ちょっと前までの海外脱毛事情
日本の美容エステ業界は、このファッションを何とか日本にも定着させたいと考えているのでしょう。
「生やしっぱなしで、お手入れなしなんて、遅れてる!信じられない!」 みたいな煽(あお)りを植えつけようとしています。
「海外の先進国は違うよ!」 みたいなノリです。こういう記事を書いているのは、未だに発展途上国である日本に住んでいるようです。(苦笑)
しかし、そんな海外の脱毛事情は、ごくごく最近のことです。
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70年代のヒッピー世代の文化では、自然に生やすのを良しとしていましたし、当時、全部剃っているのは、売春婦かホモくらいのもの、と言われていました。欧州にしても南欧は別にして、ドイツ・デンマーク・オランダや北欧モノなどは、ポルノも生やし放題のけむくじゃら。
ドイツにしても、90年代の半ばくらいまでは、アンダーヘアやワキ毛を剃毛(ていもう)していると売春婦のような 「ふしだらな女性」 として見られましたし、スネ毛を剃らないのが 「ドイツ女性」 と言われていました。
「ロックバルーンは99」 でヒットした、ドイツ人シンガーのネーナ(Nena)は、ワキ毛そのままで有名でしたが、あの曲のヒットは 1983年。
80年代のフランスの女優 「ソフィー・マルソー(Sophie Marceau)」 は、フランスの女性の大半はワキ毛を剃らないと公言していたぐらいです。
海外を見渡してみても、当時ツルツル系はアメリカのポルノぐらいのものでした。
しかし、アメリカにおいても、70年代と言えば、「ハリー・リームス(Harry Reems)」 の 「ディープスロート」 なんて映画は、かなりセンセーショナルで有名でしたが、もうこれなんか、胸毛もアンダーヘアも、もじゃもじゃ。
年齢を詐称(さしょう)し、15歳でポルノ女優になったポルノクイーン 「トレイシー・ローズ(Traci Lords)」 も有名ですが、これは80年代半ば。しかし、彼女にしても、まだアンダーヘアはあります。(笑)
アメリカン・ポルノグラフィにしても、剃るようになったのは、90年代以降でしょうか。
ということで、欧米にしても、せいぜいこの10~20年で、この辺の意識が変わってきたということでしょう。
ムダ毛処理にしても、そうです。
スペインやポルトガルの方は、剃ります。フランスの女性も、パリジェンヌは腕やすね毛を剃る女性が多いです。しかし、一方のドイツはと言うと、どちらかと言うと、腕もすねも伸ばし放題。
こういった国民性の違いは、その国や地域の気候風土や文化にもよると思います。
ファッション的に素足を好むか、ストッキングを好むかという違いもあります。素足を見せるのを好む文化圏や、そもそもストッキングを履くこと自体が 「暑い」 と感じる文化圏では、生足を露出させることが多いため、本人も気になるでしょうし、お手入れする機会も増えるかも知れません。
日本も以前は、ムダ毛の余程濃い人ではない限りは、すね毛の処理はあまりしませんでした。これは、人前に出る場合は、パンストを履くのが習慣化していたためと思われますが、最近は、ストッキングを履かない 「生足」 という選択も出来るようになってきたため、その分、すね毛などのお手入れが気になる女性が増えた可能性があります。
と言うことで、そもそもの認識や考え方が違うだけです。
「パイパン」 は衛生的ではない
では、本人は、つるつるになって、清潔感いっぱいに感じているようですが、しかし本当のところはどうなんでしょう。
実際は、その逆で、米国の医療関係者によると、アンダーヘアをワックス脱毛したり、カミソリで剃ってる女性には、年々、毛嚢炎(もうのうえん)や毛包周辺の感染症になる女性が増加しているそうです。
毛嚢炎の原因は 「黄色ぶどう球菌」 で、重症ともなると、腫(は)れている患部をメスで切開し、廃液した後、抗生物質の投与が必要になったりするそうです。
また、伝染性軟属種ウイルスによる 「水いぼ」 が、伝染しやすいという調査もあり、子宮頸癌の発生リスクを高める HPV (ヒトパピローマウイルス)や性感染症の感染リスクが増大するという報告もあるそうです。
「Dangers of Shaving your Public Hair?」
ホームレスなど、非衛生的な環境で暮らしており 「毛ジラミ」 が居るというのなら、話は別ですが、カミソリで剃るにしても、ワックスや毛抜きで抜くにしても、毛包を痛めることになり、そこから、病原菌やウイルスが侵入するリスクが高まるということです。
外科手術のときなんかには、わざわざ体毛を剃ったりすると言われる方もいるかも知れません。しかし、日本手術医学会が 2013年発行の 「手術医療の実践ガイドライン(改訂版)」にも、「手術部位や周辺の体毛について、手術の支障にならない限り、除毛は行わないのが原則」 とあるように、手術部位の感染を防ぐ目的からは、むしろ、剃毛はしないほうがいいとされています。
では何故、今でも、手術に際して剃毛が行われるのか。それは衛生的な理由ではなく、手術の支障になる、すなわち、手術しやすいからに他なりません。
仕掛け人は、大手エステと苫米地氏
こういった出所の分らないイメージ戦略的なものは、オウムではありませんが、かなり、得体が知れないという違和感を覚えます。
いろいろと調べていくと、この 「ハイジニーナ」 という用語は、登録商標になっていることが分りました。
まだ本当か嘘かまでは、きちんと確認出来ていませんが、苫米地英人氏が、某大手エステの顧問をしていたときに、ビジネスを提案し、その際に本人が登録商標を取得したという話があります。
某大手のエステが、レーザー脱毛機器の売り込みに苦労していて、そのときに苫米地氏が助言したという噂もあります。
勝手に作り上げあげた造語を、インターネット上でいろいろと記事化させることで、一般的な言葉であるかのように人々に錯覚を起こさせ、Wikipedia の 「パイパン」 のところにまで説明文を書かせるまでやるなんてのは、能力はあるのでしょう。しかし、実に巧妙ではあるものの、かなり姑息と言えます。
「登録商標『ハイジニーナ』は、苫米地博士がもっている?それってどういうこと?」
切実な思いをしている人にとっては、問題解決のための、ひとつの手段になり得ると思います。本来であれば、そういう悩みを抱える消費者に対して訴求(そきゅう)するのが正攻法なはずです。
しかし、そういう良識といったものや誠意といったものは、ここでは全く感じられません。
美容業界そしてエステ業界が狙っているもの、それは、「鴨」 であり 「金」 です。
この言葉に乗るということは、美容エステ業界のビジネスに乗ることであることを十分理解しておいて下さい。
女性が剃毛しない自由
最後に。
ちなみに最近のことですが、2016年7月12日に、16歳のフランスの女子 「アデル・ラボ(Adèle Labo)」 ちゃんが発信したツイート(#LesPrincessesOntDesPoils 「お嬢様には毛がおあり」) というハッシュタグが話題になっています。
「女性が剃毛しない自由」 について活発に議論するタグ。 彼女は、「体毛をそのままにしておくことは、アブノーマルなことなんかじゃない」というメッセージと共に、自らの腋の毛の写メをアップして、“剃らない” 写真のシェアを呼びかけたそうです。
ガーディアン紙の取材によると、このタグを立てたのは、学校でムダ毛を剃るのを拒んだところ、学校で嘲笑されたり、いじめにあったりしたからなのだそう。
女性の体毛はそらなくてもいい──。フランスで女性たちが脇や脚の毛をそっていない写真をツイッター投稿し、話題を呼んでいる。体毛を残すことに根強く残るマイナスのイメージに戦いを挑む試みだ。
出典 「そらない」のも女性の自由 仏で体毛未処理の写真投稿相次ぐ (AFP=時事)
「『体毛は個人の自由!』 ムダ毛を剃らない写真を Twitterに次々投稿するフランス女性達」
自分の感性を大事にすることの重要性
ニューヨークでサロンを開業し、こつこつと努力を積み重ね、「ブラジリアンワックス」 をここまで世界に広めるキッカケとなった、J シスターズサロンのバジーリャさんの話も、ある意味アメリカンドリームを地でいく美談ですし、学校の友達のいじめにも負けず、「女性が剃毛しない自由」 なんて言葉を作り出したラボちゃんも、天晴れ(あっぱれ)です。
どちらも、今現在の自分が持てるものを、精一杯出している。どちらも、実に 「粋」 です。
それに引き換え、おかしな造語を作り出し、女性の弱みに付け込むような、眉唾(まゆつば)的な論理で、ティーンに訴求(そきゅう)しようとする 「大手エステ」 や苫米地氏には、なんの格好良さも美談もありません。むしろ醜悪です。(苦笑)
日本の美容エステ業界も、何とか世界の脱毛のトレンドに乗りたかったのでしょう。しかし、某大手エステが目論(もくろ)んでいたのは、消費者単価の高い 「レーザー脱毛」 だったので、「世界の脱毛ブーム」 の発端となった 「ブラジリアンワックス」 を神格化するわけにはいかなかったわけです。
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16歳のラボちゃんが、いみじくも言ったように、「自分の体毛をどうするか。それは自分自身が決めれば良いこと」 です。
体毛が他人より濃くて、コンプレックスを感じるのであれば、剃毛やワックスも、ひとつの手段ですし、毎回の手入れにうんざりしている人であれば、レーザー脱毛もひとつの選択肢ではあります。
ネットでの 「脱毛」 関連の記事は、ステレオタイプの記事で既に埋め尽くされている感がありますので、今更こんな記事を書いたところで 「焼け石に水」 かも知れませんが、多少であれ、目に付いた方の、アンダーヘアやムダ毛のお手入れの参考にでもなれば幸いです。
これから、何回かに分けて、「ムダ毛ネタ」 で書いてみるつもりです。
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