2ntブログ
2016/04/29

30 させごろ、40は、しごろ (2)

唄の意味

 

自分はと言えば、もう、今は、それを理解できる年齢にもなっていますし、その唄の中身が、如何に 「言いえて妙」 かを実体験として納得しています。

 

しかし、教わったばかりのときは、さっぱり意味が解かりません。(苦笑)

「祇園精舎の鐘の声・・・」 ではありませんが、まだ女心も理解出来ていない若造が、いきなり、飲み屋で復唱させられることになります。

 

三十の 「さ」、四十の 「し」、五十の 「ご」、を受けていることを教わり、でも、何故 「させ頃」 なのかも、「し頃」 なのかも、分からない。

ましてや 「茣蓙(ござ)」 と言われて、なんで茣蓙?

茣蓙は知ってますけど(苦笑)、なんで茣蓙をかきむしるのかも、良くわかりません。(><;)

 

自分が小さかった頃は、まだ、茣蓙(ござ)もありました。

茣蓙とは、畳(たたみ)の表面を覆(おお)ってるようなやつです。今は、ビニールシートとかにとって変わられていますが、昔は、運動会や海水浴なんかの敷き物として使われていたりしたもんです。

今の子供達は、下手をすると、家に畳のある和室すら無かったりしますので、畳の入れ替えや、畳の張替え作業なんかも見たことがないでしょう。

大きな針で、畳職人が、畳床(たたみどこ)と呼ばれる厚みのある板状のものに、畳表(たたみおもて)と呼ばれる茣蓙(ござ)を被せて、ぶっとい 「5寸」 くらいの針で縫っていく。

今は、張替え作業ですら、現場でするようなことはないかも知れませんから、そうなると、茣蓙(ござ)自体を見る機会がないかも知れません。

ちなみに、畳を張り替えるの使う茣蓙(ござ)は、まだ青々とした 「青表」 のイグサ(藺草)です。

 

話を戻しますが、しかし、畳に張ってしまった畳表の茣蓙は、畳床に縫いこむようにして合わせてありますので、手で掴めるような代物ではありません。

 

50 で、茣蓙(ござ)を搔きむしる。

今で言えば、ベッドのシーツをぎゅっと掴んでむしるような感覚でしょうか?

情景的には、手に掴むものがなくて、気持ち良いんだけども、ちょっとやる瀬ない、女性の切なさをひしひしと感じます。

 

しかし、当時の自分はと言えば、そんな女心なんざ、これっぽっちも理解しちゃあいません。

そんなガキにいくら女心を説明したところで、馬の耳に念仏。

お酒も入ってますんで、「なんでシーツではなくて、茣蓙(ござ)なの?」 みたいな野暮な受け答えをしたかも知れません。(苦笑)

 

(シーツだったら、50 に語呂合わせできないだろうかっ!)

 

今の自分であれば、思わず、突っ込みを入れてしまいそうです。(苦笑)

 

***

 

茣蓙(ござ)というのは、江戸時代の夜鷹(よたか)のシンボル。

夜鷹とは、江戸時代の売春婦、今で言う 「立ちんぼ」 です。

手に茣蓙を抱えており、顔は手ぬぐいで頬かむりして、その一端を口で咥えて、みたいなイメージです。

茣蓙は、どっかその辺で 「いたす」 ときに、地ベタの上にでも敷くためのものなのでしょう。

 

 

江戸時代には、吉原のような遊郭(ゆうかく)もありましたが、その中でも、「花魁(おいらん)」 と呼ばれる娼婦は、娼婦の中でも別格中の別格。筆頭格。今で言う 「アイドル的」 な存在です。

これ以外にも、湯屋(ゆや)と呼ばれる大衆浴場で性的なサービスをする湯女(ゆな)や、旅籠(はたご)で性的なサービスをする飯盛女(めしもりおんな)といった娼婦もいたようですが、夜鷹と言えばフリーランス。そういったフリーランスの遊女(あそびめ)の中でも最下層の娼婦と言われています。

 

夜鷹が現れるのは夜。ましてや顔を隠す手ぬぐいなんかもあったりするので、顔も良く分からないことから、一般には、廓(くるわ)の適齢を過ぎた女性であったり、梅毒に冒された女性などとも言われていますが、そもそも、顔も隠されてしまっているので、所在確認もできません。

 

江戸時代は、武家などの不義密通(ふぎみっつう)いわゆる 「不倫」 は 「切り捨て御免」 であり、死罪ですが、庶民のセックスはかなり奔放です。

しかも、病理学的に考えれば、梅毒の病理も解からず、予防法も存在しない江戸時代において、そんな夜鷹ばかりだったら、江戸中にパンデミックしてるはずです。

 

であるならば、そういう病人のケースもあるかも知れませんが、夜鷹の病人説は、「口裂け女」 的なデマと考える方が現実的。

だいたい即効性のある抗生物質も、痛み止めもない時代です。病状が進行してる状況では、そうそう稼ぎに出れるわけもありません。

 

そうすると、リアリティを重視するのであれば、顔を見られると、見られた方も、見たほうも双方が困る女性と考えるのが、現実的。

江戸時代に、一番 「性」 の抑圧を受けていたのは、武家の妻です。

町人なら、好き勝手にまぐわえるのに、自分はと言えば武士の妻だから出来ない。

武家には使用人もたくさんいます。旦那は女中にも手を出すし、側室ではないけども、女性をいくらでも囲うことは可能です。甲斐性っていうやつです。

しかし、女性の場合は、武家の奥方が使用人の男とでも密通したことがばれた暁(あかつき)には、その場で切り捨てられるか、市中連れまわしの上、打ち首獄門です。

だから、みんなばれる前に 「行方(ゆくえ)」 を眩(くら)ましたわけです。それが 「駆け落ち」。

 

「武士は食わねど高楊枝」。どうしても食えない下級武士の妻がお金目当てという説もあります。それもあったかも知れません。

しかし女性の性を理解すれば、現実は、もっと深い。もっと上流の武家の奥方が、男目当てに夜鷹になっていたとも考えられます。

 

夜鷹のお相手は、全く知らないひと。 二度と顔を合わせない人や、あるいは、近所に住んでても、顔や素性(すじょう)はお互いに知らないけれども、馴染みの相手。そのいずれかです。

場合によっては、顔や素性は知りつつも、夜鷹として近づくなんて場合もあったのでしょうか?

そんなことは、知る由(よし)もありませんが、リアルの女性を知ってるひとであれば、想像に難くありません。(笑)

 

しかし・・・

 

40代の 「したい盛り」 を通り越して、茣蓙ではなくとも、シーツを 「ぎゅっ」 と握ることで切なさを耐えようとする女性の身悶(みもだ)えるさまは、50代であるかどうかは別にして、果実はトロトロになって、皮がふやけている 「完熟した柿」 のように甘く瑞々(みずみず)しいもの。

 

たまりませんっ。(笑)

 

こんな話を読んでいて、「キモッ」 なんて思うのは、まだ若い子でしょう。(笑)

でも、それを否定はしません。

いいんです。(笑)

自分も、若い時分にこんな話を聞いて、何が良いのかさっぱりと理解できませんでしたから。(笑)

 

***

 

三十路(みそじ)も半ばを過ぎて、女の盛りに差掛かるくらいになり、四十路(よそじ)を迎えるようになると、女性も、だんだんその意味が理解できるようになってきます。

それが人間の歳相応の季節感です。

日本には四季があるおかげで、自然の移り変わりと同じように、人にも移り変わりがあることを、身体でそして心で感じ取ります。

 

三十路は、やはり女性は見た目にも美しい。エロい香りをかもし出し、果実がちょうど熟した食べ頃感があるのが 30代。とにかく、”エッチをしたい男” が群がるので、30代は、”させる” には最高の頃合い。ゆえに 「させ頃(ごろ)」。

それを過ぎ、四十路を迎えるようになると、女性の性欲はもっと強くなって、今度は、自分からセックスをしたくなる。40代は、女性もしたくてたまらない頃合い。自分から求めるから 「する頃」 → 「し頃(ころ)」 になる訳です。

そして、五十路ともなると、もう交わるのが、良くて良くてたまらない。

セックスで焦らされては ドキドキ し、切なくなっては ドキドキ する。

 

某女将は、「女性の花は、35歳から55歳」 と言いましたが、それはすなわち、女性と男性の性交(まぐわい)の話。

自分は、それを 「食べ頃」 と表現しています。

こってりした内容の話は、あっさりした方が 「粋」 というもの。

女の 「色」 が見えてくると、日本の文化に根付いている 「色」 もみえてきます。

 

「色」 は切なく、移り変わる。だからこそ美しく、味わいがある。

「色」 は確かに存在するものだけど、掴めるものでも、所有できるものでもありません。

だからこそ、「一期一会」 にもつながる。

掴もうとしても、掴めないのが、男心であり女心。

そこにみんな、永遠を求めながら、しかし、流れ移るところに、恋心のはかなさと、美しさを感じるわけです。

 

***

 

未だに何処の飲み屋だったか解かりません。

一代限りのお店なので、今はどこも、もうありません。地元の行き着けの店だったか、それとも新橋のママのお店だったか。

横浜中華街で日系2世のパパがやってた将校(オフィサー)専用のバーでもないし、いくつになっても、ずっとリーゼントスタイルを崩さず、江戸っ子バーテンを貫いてるお店でもありません。

 

頭では理解出来ても、その意味を身体で理解できていないこと。そんなことは人生、山のようにあります。しかし、この唄の場合は、頭で理解することさえも難しかった。

 

でも、ひとりの男として、知ることが出来て、とても幸運だと思っています。

「遅すぎる!」 と言われてしまうかも知れませんが、あのときに、一生懸命説明してくれた先輩に感謝しています。

 

つづく

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